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東京高等裁判所 昭和27年(う)1708号 判決 1953年7月20日

主文

原判決を破棄する。被告人等はいずれも無罪。

理由

本件控訴の趣意は被告人吉田平吉本人作成名義、同被告人の弁護人林隆行作成名義及び同被告人の弁護人牧野良三、同林隆行の共同作成名義並びに被告人西口西太郎の弁護人今成留之助作成名義の各控訴趣意書記載のとおりである。これに対し当裁判所は左の如く判断する。

弁護人林隆行の控訴趣意第一点の四及び弁護人今成留之助の控訴趣意について。

刑法第九十六条の三第二項の規定は「公正ナル価格ヲ害シ又ハ不正ノ利益ヲ得ル目的ヲ以テ談合シタル者」を処罰するというのである。

即ち(イ)「公正ナル価格ヲ害スル目的ヲ以テ」行われた談合及び(ロ)「不正ノ利益ヲ得ル目的ヲ以テ」行われた談合だけを犯罪としているのであつて、あらゆる談合を犯罪としているのではない。そして工事請負に関する競争入札にあたり談合するというのは、その入札希望者が互に通謀し、その中の或る特定の入札希望者を契約者とすることを協定し、そのためその者の入札額に比し他の者はいずれも高額の入札を行い、よつて右特定の者をして最低入札者としてその工事請負の契約を締結させることを指称するものと解すべきである。入札希望者以外の者といえどもこれに加担して共犯としての責任を負うことがあり得ることはもとより論をまたない。ところでそもそも競争入札制度の本旨とするところは、入札希望者をして各自の採算を無視してまで価格をせり上げ又はせり下げさせることではなく入札施行者に最も有利な条件をもつて応じ得るような個人的経済事情を有する者を発見することであると解するのを相当とする。例えば或る工事の指名競争入札の施行に際し、その数名の入札指名者をして公正な競争により各自採算を無視せず実費に適正な利潤を加算した額で入札させるならば、必ずやその中で地理的関係、資材の関係その他においてその工事につき最も有利な条件をもつて応じ得るような個人的経済事情を有する者の入札額が最低となり、その結果その者が落札者となる筈であつて、これこそ競争入札の目的とするところであり、またこの落札価格こそ右刑法第九十六条の三第二項にいわゆる公正な価格と称すべきものである。即ち同法条にいわゆる公正な価格とは、当該入札において公正な自由競争により形成せらるべき落札価格を指称する(昭和十七年(れ)第一、五九七号昭和十九年四月二十八日大審院第三刑事部判決、判例集第二十三巻第八号九七頁参照)と解すべきである。しかしながら、工事請負についての入札の実状は、これを自由競争に任せた場合、常に必ずしも公正な自由競争が行われるとは限らず、却つて劣悪な条件を有する者までが落札を熱望する余り、時には採算を無視してまで低い価格で入札を行い自己に落札することも少くなく、このような事例が頻発することにより土木建築請負業者全体の生活をおびやかすに至る憂なしとせず、またかかる事態は落札工事の不完全実施の原因となる虞もあること原審第十七回公判調書中証人五十嵐真作の供述記載並びに当裁判所の証人金巻長次郎及び同加賀田二四夫に対する各尋問調書によりこれを認めるに難くない。自由競争の結果生ずる右の如き弊害を阻止するため、若し入札指名者が協議の結果、業者の生活の保護と工事の完全実施との確保を期するため、その工事に対し最も有利な条件を有する者を落札者と定め、落札価格もその者の実費に適正な利潤を加算したもの、即ち前記のいわゆる公正な価格の範囲内とするように談合を行つたとすれば、その談合は寧ろ法律の精神に合致こそすれ、犯罪として処罰の対象とするの要は全くないというべきであり、更にこの場合に限らず、仮に談合により落札者と定められた者が必ずしも最も有利な条件を有する者でなかつたとしても若しその者が自己の利潤を削減し前記のいわゆる公正な価格の範囲内の価格をもつて契約した場合であるならば、これによりその工事の実施が粗悪なものとならない限り、かかる談合もまた敢て犯罪として処罰するに当らないと解するのが相当である。刑法第九十六条の三第二項の規定がすべての談合を犯罪とせず、前記(イ)及び(ロ)の場合のみを犯罪としたのは、この意味において理解すべきである。そこで被告人が談合を右(イ)にいわゆる「公正ナル価格ヲ害スル目的ヲ以テ」行つたというのは如何なることを意味するかといえば、それは公正な価格(即ち前説明のとおり当該入札において公正な自由競争により最も有利な条件を有する者が実費に適正な利潤を加算した額で落札すべかりし価格)よりも入札施行者に対し不利益な価格を形成させる目的(少くとも認識)をもつて談合を行うことを指称するものと解すべきである。この場合被告人がその公正な価格の数額まで認識することは必ずしも必要でないが、少くとも公正な価格が談合により形成せられる価格よりも入札施行者に対し有利な額であるという認識は必要である。最も有利な条件を有する者ではないことを認識しながら、その者を談合により落札者とすることと決めた場合であつたとしても、その者が必ずしも公正な価格を超えた価格を形成するとは限らないこと前に説明したとおりであるから、右の認識があつたというだけの理由により公正な価格を害することの認識があつたものと推認することはもとより許されない。次に被告人が談合を前記(ロ)にいわゆる「不正ノ利益ヲ得ル目的ヲ以テ」行つたというためには、談合により利益を得ることを被告人が目的としていた(少くとも認識していた)こと並びにその利益が不正なものであることを必要とすると解すべきである。そしてその利益が不正なものであるか否かは被告人の主観により決すべきではない。換言すれば被告人が正当な利益であると考えただけで直ちにその利益が正当なものとなるという訳ではなく、また被告人が不正な利益であると考えただけで当然それが不正なものとなるとも限らない。それではその利益が如何なる場合に不正なものであり、また如何なる場合に不正でないものであるかというに、前記のとおりの競争入札制度の本旨に照らし考察すると、両者区別の標準は、被告人がその利益を得るため当該入札における公正な価格が害せられるに至つたか否かに存すると解するのを相当とする。例えば或る工事請負の入札につき、被告人が談合していわゆる談合金を受領した事実がある以上被告人に利益を得る目的があつたものと認めてよいことは明らかであり、しかも、その際若し落札者が談合金捻出のため自己の実費に相当の利潤を加えたものに更にその談合金額を加算したものをもつて落札金額としたとすれば、これにより当然少くとも談合金額だけは公正な価格が害せられることになるから、(たとえ被告人に公正な価格を害する目的がなかつたとしても)被告人の所為は「不正ノ利益」を得る目的をもつて談合したものとして犯罪を構成するものと認めなければならない。しかしながら反面、談合金を出した落札者が自己の相当の利潤を削減し、時にはこれを無視することにより公正な価格の範囲内で落札することもあり得ること原審第五回公判調書中証人羽賀幸雄の供述記載、原審第十三回公判調書中証人本間石太郎の供述記載並びに当裁判所の証人金巻長次郎、同加賀田二四夫、同皆川喜代治、同内堀隆平、同羽賀幸蔵に対する各尋問調書によりこれを認めるに難くないのであるから、談合金の授受が行われたからといつて、当然公正な価格が害せられ、延いてまた右(ロ)にいわゆる「不正ノ利益」を得る目的があつたと推認することは許されない訳である。

さて、ひるがえつて本件についてこれを見るに、原判示第一の(一)ないし(十四)及び第三の事実はそれぞれ被告人等が公正な価格を害し不正の利益を得る目的をもつて談合を行い、且つ談合金を受領したというのであり、原判示第二の事実は被告人等が公正な価格を害する目的をもつて談合したというのである。そして工事請負の競争入札にあたり談合を行つた場合、その談合の当初の趣意がたとえ前説明のとおりの自由競争の結果生ずる弊害の阻止にあつたのであつて、敢えて公正な価格を害し又は不正の利益を得ることを目的としたものではなかつたとしても、その際かりそめにも談合金の授受が行われた場合には、いわんやその談合金が高額のものである場合においてはなおさら、その工事請負契約の締結者において、その談合金捻出のため契約金額を前記にいわゆる公正な価格を超えて定め、仮に公正な価格の範囲内で契約金額を定めたとしても、そのため請負工事の実施を粗悪のものとし、結局折角正当な談合を行わうとした当初の趣意を沒却する危険が極めて大であるから、いやしくも正当な談合を行わうとする者は、よろしく談合金の授受というが如きことは極力これを戒め避けなければならないことは、当然の道理というべきである。しかしながら、談合金の授受が行われたということだけの理由により、その他の立証を要せず直ちに公正な価格が害せられたと推認することの許されないことは、既に説明したとおりであるところで原判示第一の(一)ないし(十四)及び第三の各談合金の授受が行われた場合についてこれを見ると、右各談合により形成せられたいずれの価格においても、その価格が当該入札における前記のとおりの公正な価格よりも高額であつたということは、記録に徴してもまた当審における事実取調の結果に照らしても、これを認めるにその証明が不十分であるといわざるを得ず、なお談合金を出したため請負工事の実施が粗悪なものとなつたという証拠も存しない。ちなみに、ここにいわゆる談合により形成された価格というのは、談合により当初協定された最低入札額と必ずしも一致しない。原判示第一の(四)、(六)、(八)、(十一)、(十二)、(十三)及び(十四)の場合においてはその最後に随意契約により締結された価格をもつて右にいわゆる談合により形成せられるに至つた価格と認めるべきである。けだし、契約が締結されるまでは、公正な価格が害せられるという結果は生じないからである。尤も談合により形成せられるに至つた価格よりも低い入札見積をしていたという入札指名者の供述記載も原判決挙示の証拠中に存在しないではないが、当該入札における前説明において示した公正な価格即ち公正な自由競争により最も有利な条件を有する者が実費に適正な利潤を加えて落札する筈であつた価格が右各見積価格の如く低額のものであると認定するには証拠不十分である。結局被告人等の取得した談合金が刑法第九十六条の三第二項にいわゆる「不正ノ利益」であつたことを認定するに由なく延いて被告人等に「不正ノ利益ヲ得ル目的」があつたということもこれを認定する訳には行かない。次に原判示第一の(一)ないし(十四)、第二及び第三の談合により形成されたいずれの価格についても、その価格が各入札における前記にいわゆる公正な価格よりも高額のものであることを被告人等が認識していたということについても記録に徴し、また当審における事実取調の結果に照らしてもこれを認めるにその証明が十分でない。右にいわゆる談合により形成された価格というのも、原判示第一の(四)、(六)、(八)、(十一)、(十二)、(十三)、(十四)及び第二の場合においてはその最後に随意契約により締結された価格を指称するものと解すべきである。けだしいずれの工事においても、若し談合により県の予定価格を超過する最低入札額を協定した場合には、必ず県工事施行規程によりその落札は不調となり、最後はその予定価格の範囲内の価格をもつて随意契約を締結するに至るものであることを、すべての関係業者が各談合の際予知していたことは、記録上これを窺うに難くないから、公正な価格を害する目的(又は認識)があつたか否かの判断にあたつても、その最後の価格をこそ公正な価格との比較の対象とすべきものであると認めるのを相当とするからである。この場合被告人等が談合によりなるべく県の予定価格と同一額、若しこれより低いとしてもできるだけこれに近接した価格をもつて契約することを意図していたとしても、原審第十七回及び第二十回各公判調書中証人五十嵐真作の各供述を通じ「自分は昭和二十二年十一月一日から新潟県土木部長をしているが、予定価格について現場の技術者或は担当課長が一定の価格を決めた後自分が上増したということは自分の記憶ではないが、減じたというのは数多くある。予定価格を県では適正と考えているので、予定価格に近い額で落札することが望ましいと考えている。例えばダンピング的というか、とらんがために競争するということで、非常に低い額で落札した場合には、工事が粗悪になる虞があるので、県としては最善をつくして決めた予定価格に対し、それに近い額で落札するのが極く常識的に見てよい。自分は本件談合によつて新潟県が迷惑を受けたとは考えていない。」旨の記載に徴すると、被告人等に右の意図があつたというだけの理由で、公正な価格を害する目的があつたことを推認することも妥当でない。結局被告人等が刑法第九十六条の三第二項にいわゆる「公正ナル価格ヲ害スル目的ヲ以テ」談合したということを認定するに由ない。これを要するに、原判決が被告人等に対して刑法第九十六条の三第二項所定の犯罪事実を認定したことは、判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認であると解せざるを得ないから、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨はいずれも結局理由がある。よつてその余の論旨に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決を破棄し、なお、同法第四百条但書を適用し、当裁判所において更に次のとおり判決する。

本件公訴事実の要旨は

被告人吉田平吉は吉田組の名称で土木建築請負業を営む傍ら主として新潟県内の土木建築業者相互の連絡発展を図る目的の為設立せられた新潟市医学町通り二番町三十五番地所在社団法人新潟県土建工業協会の会長となり自ら会務一切を掌握して県内土建業者に対し大なる勢力を有し居るもの被告人西口西太郎は西口組の名称に於て土木建築請負業を営む傍ら新潟県内の中小土木請負業者間に於ける斯業の改良発展の為に結成した新潟県土木建築工業協同組合の専務理事となり被告人吉田の主催する前記新潟県土建工業協会に出入し県下土建界に相当の勢力を有して居るものであるが

第一、昭和二十四年春頃前記協会事務所に於て被告人吉田平吉は被告人西口西太郎及び原審相被告人河野利江に対し今後新潟県下土建工事の請負指名競争入札に際し指名入札人等が談合に依つて落札人(最低額入札者)を定める際之が斡旋仲介の労をとつて貰らいたい旨依頼し被告人西口及び右河野は之を承諾し尚談合に依つて定まつた落札人が落札又は随意契約をした際は落札金額又は請負契約額の三分乃至五分或は歩競率に依る金額を談合金として被告人西口、右河野竝びに他の指名競争入札者等に贈与することと諒解を遂げ茲に被告人両名及び右河野は共謀の上談合に依り公正な価格を害し不正な利益を得る目的を以て

(一)昭和二十四年三月七日県営山北用水改良事業昭和二十三年度第三次工事の指名競争入札が行はれた際、談合の為入札に先立ち指名競争入札者である株式会社建設工業の代表皆川喜代治株式会社植木組の社長植木豊太等五名位が前記新潟土建工業協会事務所に参集するや被告人吉田等も之に出席斡旋して同人等と共に談合をなし結局歩競に依つて最低額入札者を株式会社建設工業、最低入札額を九百十八万円と定め同日県庁に於て指名競争入札の如く装つて株式会社建設工業をして右金額で入札せしめ其の他は同金額より夫々高価に入札せしめ因て開票の結果談合の通り右会社に於て予定価格九百二十七万四千円と大差ない前記談合価格で落札するや同年六月十六日頃右協会事務所に於て前記皆川喜代治より前示歩合に依る談合金を五十万円に値引して之を被告人吉田、同西口、右河野等に於て受領し

(二)昭和二十四年五月十四日県営貝喰川沿岸排水改良事業第一号排水路工事竝嵐南排水改良事業金子川下流部工事の指名競争入札が行はれた際談合の為入札に先立ち指名競争入札者である土建請負業株式会社羽賀組の代表者羽賀幸雄外三名等が前記協会事務所に参集するや被告人西口、右河野等も之に出席して同人等と談合し最低額入札者を羽賀組、最低入札額を嵐南排水改良事業金子川下流部工事に付二百十四万円、貝喰川沿岸排水改良事業第一号排水路工事に付四百三十五万円と定め同日県庁に於て前同様の方法に依り競争入札の如く装ひ右各指名入札者等をして入札せしめ開票の結果談合の通り右羽賀組が嵐南排水改良事業金子川下流工事に付二百十八万円、貝喰川沿岸排水改良事業第一号排水路工事に付四百四十二万円の各予定価格に近接した右各談合価格で落札するや同日前記協会事務所に於て羽賀幸雄より両工事に付合計二十一万六千九百円を談合金として被告人西口、右河野竝びに前掲指名競争入札者に於て受領し

(三)昭和二十四年六月十六日県営山北用水改良事業昭和二十四年度工事の指名競争入札が行はれた際、前同様談合の為入札に先立ち指名競争入札者である株式会社建設工業の代表者皆川喜代治外六名位が右協会事務所に参集するや被告人西口、同吉田及び右河野も之に出席斡旋して同人等と共に談合し最低入札者を株式会社建設工業、最低入札額を三百三十六万五千円と定め同日県庁に於て前同様の方法に依り夫々各指名入札者等をして入札せしめ談合の通り同会社が予定価格三百三十七万円に近接した右談合価格で落札するや同日前示協会事務所に於て皆川喜代治より金五十八万円を談合金として被告人西口、右河野等に於て受領し

(四)昭和二十四年七月十九日県営十日町橋架換工事の指名競争入札が行はれた際前同様談合の為入札に先立ち指名競争入札者である新潟県土木建築工業協同組合の理事内堀隆平外七名位が前記協会事務所に参集するや被告人西口、同吉田及び右河野も之に出席して同人等と共に談合し最低額入札者を前記協同組合、最低入札額を第一回二千七十万円、第二回千九百八十五万円と定め孰れも同日県庁に於て競争入札の如く装ひ前同様の方法に依り各指名入札者をして入札せしめたが両回とも予定価格超過の為落札不調となり結局県工事施行規程に従ひ最低額入札者である前記協同組合に於て予定価格千九百七十万円と大差ない千九百六十五万円で随意契約を締結することとなるや同日前示協会事務所に於て内堀隆平より前掲歩合に従ひ金五十八万九千五百円を談合金として被告人西口、右河野等に於て受領し

(五)昭和二十四年七月二十五日県営出雲崎港漁港修築工事出雲崎港第一波除堤復旧工事同港第三波除堤復旧工事竝寺泊港第二波除堤復旧工事の指名競争入札が行はれた際前同様談合の為入札に先立ち指名競争入札者である土木建築請負業を営む中元合資会社の代表者中元栄造、小林甚四郎外二名位が前記協会事務所に参集するや被告人西口、右河野も之に出席斡旋して同人等と談合し前記出雲崎港の三工事は右小林甚四郎を、寺泊港第二波除堤復旧工事は右中元合資会社を各最低額入札者とし、最低入札額は出雲崎修築工事に付三百五十万円、出雲崎港第一波除堤復旧工事に付二百万円、同港第三波除堤復旧工事に付二百万円、寺泊港第二波除堤復旧工事に付二百七十万円と定め、同日県庁に於て前同様の方法に依り右指名競争入札者等をして夫々入札せしめ開票の結果談合の通り出雲崎港三工事に付ては右小林、寺泊港第二波除堤復旧工事に付ては右中元合資会社が夫々予定価格と同額の右各談合価格で落札するや同日前示協会事務所に於て前掲歩合に従ひ右小林より合計金三十七万五千円を右中元栄造より金十三万五千円を何れも談合金として被告人西口、右河野竝びに右各指名入札者等に於て受領し

(六)昭和二十四年八月十八日県営与板橋架換工事の指名競争入札が行はれた際前同様談合の為入札に先立ち指名競争入札者である土木建築請負業株式会社氏田組の社長氏田万三郎外七名位が前示協会事務所に参集するや被告人吉田、同西口及び右河野等に於て其の間を斡旋して同人等と談合し最低額入札者を氏田組と定め最低入札額を第一回七百十五万円、第二回六百七十二万円として孰れも同日県庁に於て前同様の方法に依り右指名競争入札者等をして夫々入札せしめ、開票の結果二回共予定価格超過の為落札不調に終つた為県工事施行規程上最低額入札者である氏田組が予定価格と同額の六百五十万円で随意契約を締結することとなるや同日前示協会事務所に於て氏田万三郎より金十九万五千円を談合金として被告人西口右河野等に於て受領し

(七)前同日県営本与板橋補修工事の指名競争入札が行はれた際同様談合の為入札に先立ち指名競争入札者前記中元合資会社の代表者中元栄造外五名位が前示協会事務所に参集するや被告人西口、右河野等は其の間を斡旋して同人等と談合し最低入札者を中元合資会社、最低入札額を五十五万円と定め同日県庁に於て前同様の方法に依り右指名競争入札者等をして夫々入札せしめ開票の結果談合の通り右中元合資会社が予定価格と同額の右談合価格で落札するや同日前記協会事務所に於て中元栄造より前掲歩合に依る金一万六千五百円を談合金として協会事務員菅井正男の手を経て被告人西口、右河野竝びに右各指名入札者等に於て受領し

(八)昭和二十四年八月二十三日県営刈谷田川改良工事の指名競争入札が行はれた際前同様談合の為入札に先立ち指名競争入札者中元合資会社の代表者中元栄造外六名位が前記協会事務所に参集するや被告人西口、同吉田及び右河野等は之に出席斡旋して同人等と談合し最低額入札者を中元合資会社と定め最低入札額を第一回三百三十万円第二回三百万円と打合せ同日県庁に於て前同様の方法に依り右指名競争入札者等をして夫々入札せしめたが孰れも予定価格超過の為落札不調となり県工事施行規程に従ひ最低額入札者である右中元組に於て予定価格と同額の二百八十万円で随意契約を締結することとなるや同日前示協会事務所に於て中元栄造より前掲歩合に従ひ金十四万円を談合金として右河野等に於て受領し

(九)前同日県営三島郡西越村地内産業施設道路改良工事の指名競争入札が行はれた際、前同様談合の為入札の前日指名競争入札者中元合資会社の代表者中元栄造外七名位が前示協会事務所に参集するや、被告人西口、右河野等に於て其の間を斡旋し同人等と談合し最低額入札者を中元合資会社、最低入札額を百七十万円と定め入札当日県庁に於て前同様の方法に依り右各指名入札者等をして夫々入札せしめ開票の結果談合の通り中元合資会社が予定価格百七十五万円に近接した右談合価格で落札するや同日前記協会事務所に於て中元栄造より談合金として前掲歩合に従ひ金八万五千円を被告人西口、右河野竝びに各指名入札人等に於て受領し

(十)翌二十四日県営刈羽郡内郷村地内産業施設道路改良工事の指名競争入札が行はれた際前同様談合の為入札に先立ち指名競争入札者中元合資会社の代表者中元栄造外七名位が前記協会事務所に参集するや被告人西口、右河野等も之に出席斡旋して同人等と談合し結局歩競に依つて最低額入札者を中元合資会社、最低入札額を二百二十七万四千円と定め同日県庁に於て前同様の方法に依り右指名競争入札者等をして夫々入札せしめ開票の結果談合の通り中元合資会社が予定価格二百三十万円に近接した右談合価格で落札するや同日前示協会事務所に於て中元栄造より右歩競率に従ひ金二十九万五千六百二十円を談合金として右河野等に於て受領し

(十一)昭和二十四年九月二日県営加茂農林高等学校運動場其の他災害復旧工事の指名競争入札の行はれた際前同様談合の為入札に先立ち指名競争入札者である土木請負業株式会社大川組社長大川安太郎、河内貞一郎外五名位が前記協会事務所に参集するや被告人西口、同吉田及び右河野等も之に出席斡旋に努めたが談合纏らず入札時間切迫した為被告人吉田の提唱に依り不取敢右指名入札人等に於て故意に高額に入札し予定価格超過に依り落札不調に終らしめた上更に談合して歩競に依り最低額入札者を大川組と定め最低入札額を四百二十八万五千円と打合はせ県庁に赴き各指名入札人等をして前同様の方法に依り入札せしめ再び予定価格超過の為落札不調に終り結局県工事施行規程に従ひ最低額入札者である右大川組が予定価格と同額の四百万円で随意契約を締結することとなるや同日前記協会事務所に於て大川安太郎より右歩競率に従ひ金五十八万三百二十円を談合金として被告人吉田、右河野等に於て受領し

(十二)同月二十九日県営荻川用水幹線上流部工事の指名競争入札が行はれた際前同様談合の為入札に先立ち指名競争入札者前記中元合資会社の代表者中元栄造外三名位が前記協会事務所に参集するや被告人西口、右河野等も之に出席斡旋して同人等と談合し最低額入札者を中元組、最低入札額を第一回八百九十九万八千円、第二回八百八十万八千円と打合はせ同日県庁に於て夫々前同様の方法に依り右各指名入札人等をして入札せしめたが開票の結果孰れも予定価格超過の為落札不調となつたので県工事施行規程に従ひ最低入札者である右中元合資会社が予定価格と同額の八百万円で随意契約を締結することとなるや同日前記協会事務所に於て中元栄造より前掲歩合に従ひ金四十万円を談合金として右河野等に於て受領し

(十三)昭和二十四年十月十一日県営与板高校体育館新築工事の指名競争入札が行はれた際前同様談合の為入札に先立ち指名競争入札者土木建築請負業を営む東北工業株式会社の取締役桑山清、三越建設工業株式会社の代表者田島長三郎外五名位が前記協会事務所に参集するや被告人西口等も之に出席し同人等と談合し結局歩競に依つて最低額入札者を東北工業株式会社と定め最低入札額を第一回三百四十五万円、第二回三百四十二万円と打合はせ同日県庁に於て夫々前同様の方法に依り右各指名入札者等をして入札せしめたが開票の結果孰れも予定価格超過の為落札不調となつたので県工事施行規定に依り最低額入札者である前記東北工業株式会社に於て予定価格と同額の三百三十五万円で随意契約を締結することとなるや同日前記協会事務所に於て桑山清より右歩競率に従ひ金二十三万四千五百円を談合金として被告人西口等に於て受領し

(十四)昭和二十四年十一月一日県営嵐南排水改良事業排水幹線工事の指名競争入札の行はれた際前同様談合の為入札に先立ち指名競争入札者である前記羽賀組の代表者羽賀幸雄外四名位が前記協会事務所に参集するや被告人西口、右河野等も之に出席して同人等と談合し同工事の最低額入札者を羽賀組、最低入札額を七百八十八万円と打合はせ同日県庁に於て前同様の方法に依り右各指名競争入札者等をして夫々入札せしめたところ談合の通り羽賀組が最低額入札者となつたが予定価格を超過し落札不調となつたので関係人の権利抛棄に依り第二回入札を省略し直ちに最低額入札者である前記羽賀組が予定価格と同額の七百五十五万円で随意契約を締結することとなるや同日前示協会事務所に於て羽賀幸雄より前掲歩合に依る金三十七万七千五百円を談合金として右河野等に於て受領し以て夫々競争入札に依り形成せらるる公正な価格を害すると共に談合金名義の下に不正な利益を得

第二、被告人吉田、同西口及び右河野等は共謀の上公正な価格を害する目的を以て昭和二十四年七月五日県営昭和橋架換工事の指名競争入札の行はれた際談合の為入札に先立ち同月四日頃指名競争入札者小林甚四郎外七名位が前記協会事務所に参集するや同所に於て同人等と共に談合をなし最低額入札者を被告人吉田と定め最低入札額を第一回千八百八十万円、第二回千七百八十万円と打合はせ同日県庁に於て前同様の方法に依り夫々指名入札者等をして入札せしめ両回共予定価格超過で落札不調となるや県工事施行規程に基き最低額入札者である被告人吉田をして予定価格と同額の千七百万円の請負価格で随意契約を締結するに至らしめ以つて競争入札に依り形成せらるる公正な価格を害し

第三、被告人西口及び右河野は前記第一冒頭掲記と同様な企図の下に共謀の上、昭和二十三年十二月十五日県営新小須戸排水機場工事の指名競争入札の行はれた際前同様談合の為入札に先立ち指名競争入札者である清水建設株式会社の代表者内山富雄外三名位が前記協会事務所に参集するや被告人西口右河野も之に出席斡旋して同人等と談合し右工事の最低額入札者を前記会社最低入札額を九百九十八万円と打合はせ同日県庁に於て前同様の方法に依り各指名競争入札者等をして夫々入札せしめ開票の結果談合の通り同会社が予定価格と同額の右談合価格を以つて落札するや同日前記協会事務所に於て右内山富雄より金五十万円を談合金として被告人西口等に於て受領し以つて競争入札に依り形成せらるる公正な価格を害すると共に談合金名義の下に不正な利益を得

たものである

というのであるが、これを認めるに足る犯罪の証明が十分でないから、刑事訴訟法第三百三十六条に則り、被告人等に対しいずれも無罪を言い渡すべきである。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長判事 藤嶋利郎 判事 飯田一郎 井波七郎)

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